
我々のホスピスで撮影したドキュメンタリー映画『近江ミッション~願いと祈りと喜びと~』が完成した。3月15日から神戸の元町映画館で上映される。
第一作目の『いのちがいちばん輝く日~あるホスピス病棟の40日~』から12年ぶりになる第二作目のドキュメンタリー映画で、監督は前作と同じ溝渕雅幸氏である。
チャプリンの名言に、「人生は、クローズアップでみると悲劇だが、ロングショットでみると喜劇である」という一節がある。今回の映画を通して、この名言を思い出した。
第一作目はクローズアップの映像であった。患者さんのホスピスでの日々が細やかに描かれた。また、ホスピスケアにあたるスタッフの心意気も伝わり、スクリーンに映る患者さんの日々にワクワク・ドキドキしながらストーリーを追った。ラストシーンでは、死別を通してつながる「いのち」に気づくことができた。
第二作となる今回の作品は、ロングショットのカメラ位置で撮られている。ホスピス病棟でケアを受ける人たちや、自宅で最期を迎えた人たちが描かれてはいるが、濃密なホスピスでの時間は写し込まれていない。死別という悲劇も淡く描写されているに過ぎない。
かわりに、本作品では病院のある滋賀県近江八幡市近郊の自然やそこに暮らす人たちがふんだんに描かれている。人間の営みを根底から支えているのは、この大地に他ならない。人の営みの背後には、かつて、その土地に生きて死んでいった幾世代もの人たちの営みがあった。大自然と人との交流から生まれる文化、伝統、年中行事、豊穣を祈る祭りなどをロングショットで追いかけると、それは生きて死ぬことの「自(おの)ずから然(しか)り」ということを示していた。人は大自然の中に生まれ、そしてあたりまえのこととして大自然の中に還っていく。すべてが大自然の懐の中でおこるフツーのことのようで安堵させられる。
筆者はおよそ30年間、終末期医療やケアに携わってきた。そして、人間には生来「死ぬ力」が備えられていることを知った。だが、最近ではこの「死ぬ力」が弱体化している。医療の進歩はがん治癒率の向上や長寿社会をもたらしたが、その一方で、いつか来るはずの死がぼやけてしまった。抗がん治療に明け暮れしている間に死の陰が近くまできていることに気づかない人たちが目立つように思う。また、新型コロナ感染症のような伏兵にも出くわした。「死ぬ力」が十分に発揮されないままに終わるならば、遺される人たちに悲しみや後悔、割り切れない思いを背負わせることになる。
今日、私たちに必要なことは、「死の自己学習」である。各々が自分なりの死生観を耕して、「死ぬ力」を蓄えておくことである。信仰的に言えば、たとえ死の陰の谷を歩むとも、いかに神様の存在を証しするかが問われるのである。
充実した人生と納得した帰天のために、この映画が少しでもお役に立つならば……と願うところです。
細井 順
映画の情報 「近江ミッション ~願いと祈りと喜びと~」
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