「二度目の映画製作」
2022年も残り2週間足らずとなった。
今年は、収束が見通せない新型コロナ感染症に加えて、ロシアのウクライナ侵攻、元首相が兇弾に斃れるなど、衝撃的な出来事があった。人類史上、飢饉、疫病、戦争は20世紀までに克服しつつあり、21世紀の現在において、それらが問題になるのは人為的に誰かが企んだ結果だとユヴァル・ノア・ハラリが記している。(『ホモ・デウス上』参照)そんなことを思い返しながら、今一度、「人間が生きる」ということについて頭を整理しなければなるまい。
この度、筆者の勤めるホスピスを舞台に2度目のドキュメンタリー映画の制作が進められている。
私たちは、「生老病死」という運命の中で毎日を過ごしている。ホスピスでは、その運命をその人、その人の仕方で受け止めていく。その姿は、「輝く」といってもいいほどに思われる。そういうことから、この映画の目的は、私たちが宿している「いのち」を見つめ直し、「限りあるときを生きる」ということの意味について、分断や混迷を深める世界に広く語りかけることにある。
ドキュメンタリー映画を通して、人生の奥行き、生きてやがて終わることの自然な姿、人と人とが繋がるときに生まれる優しさや喜びが時を超えていくこと、そのような人間の真実が多くの人たちに伝えることができるだろう。
残された一日一日を真摯に生きる姿には、人間が何世代にもわたって受け継いできた「いのち」の尊さ、生きることさえつらく感じる中で醸し出される勇気、人生を纏めることばの力強さ、これらが溢れている。
私たちホスピススタッフは、ホスピスケアという関わりを持たせていただいている間に、多くの生きいく力を頂く。その真実を私たちスタッフだけに留めておくことはとても勿体ないことだ。ひとりでも多くの人たちに伝えることがホスピスの大きな仕事のひとつである。
冒頭に記したように、すごくイヤな時代になってきた。このような時季であればこそ、生きて、そして終わっていくという当たり前のこと、また生きていることの不思議さを覚え、自らが生きる根拠を見つけなければならない。
人間にとっては理解不可能な神の計らいの中で出会ったホスピス入院中の人たちとその家族と共に、同時代を生きる仲間として、後世に語りかける何かを残したいと考えている。
ドキュメンタリー映画という、その時、その場のたまさかの出会いを素材にして制作されるので、仕上りをなかなか計算できない。前作『いのちがいちばん輝く日~あるホスピスの40日~』でもそうだったが、神の見えざる御手に導かれて、完成を楽しみに待ちたい。
2023年夏に公開予定である。
2022/12月
細井 順
※(HP管理者補足) 画像は映画「いのちがいちばん輝く日」DVDカバーより